「水戸=納豆」を、稼げる地域ブランドへ。茨城県の“日本一奪還”が始まる
茨城県が2026年8月25日、納豆日本一奪還プロジェクトを発表しました。県内11社との研究会、鑑評会への技術支援、県産大豆の品質向上まで。知名度を地域産業の力に変えられるかを、イバトコ編集部が考えます。
01 / CONCLUSION
結論
茨城県は2026年8月25日の知事定例記者会見で、「納豆日本一奪還プロジェクト」を発表しました。掲げているのは「納豆の品質で日本一」「納豆消費量で日本一」「健康長寿で日本一」の3本柱です。県内の納豆製造事業者11社と県による「納豆日本一研究会」を9月に立ち上げ、11月の全国納豆鑑評会に向けて試作支援を行い、2027年以降に向けては県産納豆大豆の品質向上と大豆農家への生産支援にも取り組むとしています。ここで正確に押さえておきたいのは、「奪還」という言葉が示すとおり、**現時点で茨城県も水戸市も日本一ではない**ということです。総務省の家計調査で水戸市は昨年度2位、2016年以降は首位を明け渡しています。全国納豆鑑評会で県内事業者が最優秀賞を獲ったのは2008年が最後です。この記事は施策の紹介では終わりません。「水戸といえば納豆」という全国区の知名度がありながら、なぜ指標では1位を取れていないのか。知名度が地域の稼ぐ力に変わるには何が要るのかを読み解きます。
02 / KEY POINTS
この記事でわかること
- 3本柱は「納豆の品質で日本一」「納豆消費量で日本一」「健康長寿で日本一」
- 県内の納豆製造事業者11社と県で「納豆日本一研究会」を9月に立ち上げる
- 11月開催の全国納豆鑑評会に向け、受賞率の高い大豆や県産の有望品種を活用した試作支援を行う
- 2027年以降の鑑評会に向けては、県産納豆大豆の品質向上と、大豆農家への生産支援に取り組む
- 10月から「平日納豆を1パック以上食べよう!」宣言の募集を開始。あわせてレシピ募集も始め、2027年1月にレシピコンテストを開催予定
- 予算は1500万円で、2026年度補正予算案として県議会に諮られる(茨城新聞の報道による)
- **現在の順位**:総務省家計調査で水戸市は昨年度2位。2016年以降、首位を明け渡している
- **品質の実績**:全国納豆鑑評会で県内事業者が最優秀賞を獲ったのは2008年が最後。各部門での入賞は毎年ある
- 県は健康面について「研究によりますと、納豆の摂取によって、高血圧予防と骨折予防の効果が認められている」と説明し、従来の「いばベジスタイル」を「いばベジ+納豆スタイル」に改めると提案している
03 / WHAT HAPPENED
何が起きた?
2026年8月25日の知事定例記者会見で、茨城県は「納豆日本一奪還プロジェクト」を発表しました。県の説明によれば、柱は「納豆の品質で日本一」「納豆消費量で日本一」「健康長寿で日本一」の3つです。品質については、9月に研究会を立ち上げ、11月開催の全国納豆鑑評会に向けて「受賞率の高い大豆や県産の有望品種を活用した試作支援」を行うとしています。さらに2027年以降の鑑評会に向けて、県産納豆大豆の品質向上と大豆農家への生産支援に取り組むとしています。消費については、10月から県民に向けて「平日納豆を1パック以上食べよう!」という宣言の募集を開始し、10月からレシピの募集を始めて2027年1月にレシピコンテストを開催する予定です。健康長寿については、県は「研究によりますと、納豆の摂取によって、高血圧予防と骨折予防の効果が認められている」と述べ、1日約350グラムの県産野菜を食べて循環器病対策をしようという従来の「いばベジスタイル」を、「いばベジ+納豆スタイル」に変えようと提案しています。現状の順位について、知事は会見で「昨年は水戸は2位だったのかなというふうに思います」と述べ、鑑評会については「県内事業者は、毎年、各部門で入賞はしているのですけれども、最優秀賞を逃している」と説明しました。茨城新聞(2026年8月26日付)はこれを補って、研究会の名称が「納豆日本一研究会」で参加は県内11社であること、事業費1500万円を2026年度補正予算案に計上すること、水戸市の納豆購入額は総務省家計調査で2位であり2016年以降首位を明け渡していること、県内事業者が鑑評会で最優秀賞となったのは2008年が最後であることを報じています。
04 / CHANGES
具体的に何が変わる?
「日本一」という言葉の中身を、指標ごとに分けて読む必要があります。まず消費量です。ここで使われている数字は総務省の家計調査で、比較の単位は**都道府県庁所在市など**であり、県単位ではありません。つまり「水戸市が2位」であって「茨城県が2位」ではありません。1世帯当たりの購入額という指標なので、県全体でどれだけ売れたかとも別のものです。次に品質です。全国納豆鑑評会の最優秀賞を県内事業者が獲ったのは2008年が最後ですが、県の説明によれば各部門での入賞は毎年あります。つまり「まったく評価されていない」のではなく、最上位の一枠を取り切れていない、という状態です。健康長寿については、県は「研究によりますと、納豆の摂取によって、高血圧予防と骨折予防の効果が認められている」と説明しています。これは県の説明としてそのまま記載しますが、**納豆を食べれば健康長寿になる、という意味ではありません**。個々の健康については医師等の専門家にご相談ください。そして予算です。1500万円という事業費は、茨城新聞が報じている2026年度補正予算案の額で、**県議会での議決を経て確定します**。9月の議会に諮られる段階であり、この記事の時点では確定した予算ではありません。研究会の立ち上げ時期や施策の開始時期も、すべて予定として発表されたものです。
05 / EDITORIAL VIEW
イバトコ編集部の解説
(以下は発表内容ではなく、イバトコ編集部による考察です。)茨城で暮らしていると、「水戸といえば納豆」という言葉に慣れきってしまいます。全国のどこへ行っても通じる、数少ない茨城の看板です。だからこそ、今回の発表でいちばん考えさせられたのは、その看板がありながら指標では1位を取れていない、という事実のほうでした。知名度と、産業としての強さは別物です。「水戸=納豆」という認知は、県が広告費を使って作ったものではなく、歴史の中で積み上がってきた資産です。ところが、その資産は放っておいても収益を生みません。家計調査の順位を明け渡した2016年以降の10年、認知が減ったわけではないはずです。減ったのは、その認知を売上や単価に変える仕組みのほうだったのではないか。今回のプロジェクトが興味深いのは、3本柱の並べ方です。品質、消費量、健康長寿。これは「作る」「買う」「食べ続ける」の3段階に対応しています。しかも品質のところで、鑑評会向けの試作支援だけでなく、2027年以降に向けた**県産納豆大豆の品質向上と大豆農家への生産支援**まで踏み込んでいます。これは重要な設計です。納豆の品質は、最後は原料の大豆で決まります。製造技術だけを磨いても、原料が県外産のままでは「茨城の納豆」の意味が薄くなる。畑まで遡って手を入れるというのは、名物を産業として作り直そうという意思表示だと読めます。ここで注意しておきたいのは、これで売上が伸びると決まったわけではないことです。鑑評会の最優秀賞は一枠しかなく、11社が支援を受けても取れるのは1社です。宣言募集やレシピコンテストが実際の購買を動かすかも、まだ分かりません。県が掲げているのは目標であって、成果ではありません。それでも、この施策には従来の観光PRとは違う点があります。**製造業者を名指しで11社集めている**ことです。ポスターを刷るのでも、キャンペーンを打つのでもなく、実際に作っている人たちを研究会という形で束ねた。地域ブランドが強くなるかどうかは、結局そこに関わる事業者が儲かるかどうかで決まります。その一点に手を掛けたことが、今回いちばん現実的な部分だと考えています。
06 / LOCAL IMPACT
地域への影響
(以下は発表内容ではなく、イバトコ編集部による考察です。)このプロジェクトが地域に効くとすれば、納豆メーカーの棚だけではありません。納豆は、生産から消費までの距離が短い食品です。県内で大豆を作り、県内で発酵させ、県内の食卓に上がる。この一続きが同じ県内で完結しうる食材は、そう多くありません。だから、県産大豆に手を入れるという判断は、農家にとっても意味を持ちます。納豆用大豆は、煮豆や豆腐用とは求められる粒径や成分が違います。品質向上と生産支援がセットになるなら、作り分けの技術と販路が同時に整う可能性があります。これは「作ったものを買ってもらう」のではなく、「買う側が求めるものを作れるようにする」という順序です。飲食の側にも余地があります。水戸の飲食店で納豆料理を出す店は珍しくありませんが、県外から来た人が「水戸で納豆を食べた」と言える体験になっているかどうかは別の話です。スーパーで買って帰るのと、店で食べるのとでは、支払う金額も記憶の残り方も違います。1月のレシピコンテストがそこに接続すれば、家庭の料理だけでなく店のメニューにも広がりうる。もっとも、これらはすべて可能性の話です。実際に県内事業者の売上が伸びたか、県産大豆の作付けが増えたか、県外からの購買が動いたかは、まだ何も分かりません。プロジェクトは始まってすらいません。イバトコとして次にやるべきは、この11社が何を作っているのかを一社ずつ見に行くこと、そして納豆を出している店で実際に何が起きるのかを追うことだと考えています。この記事は、その入口として置きます。
07 / FOR BUSINESSES
地域事業者への示唆
- 納豆メーカー:研究会は9月立ち上げ、鑑評会は11月です。参加の可否や支援内容は県の担当窓口で確認できます。試作支援を受ける場合、どの大豆を使ったどの試作が評価されたかを記録に残しておくと、翌年以降の製品開発にそのまま使えます。
- 大豆生産者:県が2027年以降に向けて納豆用大豆の品質向上と生産支援に取り組むとしています。煮豆・豆腐用とは求められる規格が異なるため、作り分けを検討するなら情報収集を今から始める価値があります。
- 飲食店:10月からレシピ募集、2027年1月にコンテストがあります。店のメニューをそのまま出すのではなく、家庭で再現できる形に落として応募すると、コンテスト後もメニュー名として使い続けられます。
- 小売・土産店:「水戸で買った納豆」は持ち帰りにくい土産の代表です。保冷や配送の条件を店頭で明示できるかどうかで、買われる量が変わります。県外客の多い立地ほど効きます。
- 宿泊事業者:朝食で県産納豆を出しているなら、銘柄と製造元を明記するだけで印象が変わります。「納豆」ではなく「どこの誰が作った納豆か」まで書けている宿は、いまのところ多くありません。
- 地域の情報発信者:知名度のある名物ほど、説明を省きがちです。県内に何社あるのか、何が違うのか、どこで買えるのか。当たり前とされている前提を一度書き出すと、県外の読者にとっての価値が出ます。
08 / FAQ
よくある質問
- 茨城県や水戸市は、いま納豆で日本一なのですか?
- いいえ。プロジェクト名の「奪還」が示すとおり、現時点では日本一ではありません。総務省の家計調査で水戸市は昨年度2位で、2016年以降は首位を明け渡しています。全国納豆鑑評会で県内事業者が最優秀賞となったのは2008年が最後です。
- 「消費量日本一」はどんな指標ですか?
- 総務省の家計調査による、1世帯当たりの納豆購入額です。比較の単位は都道府県庁所在市などであり、県単位の順位ではありません。つまり「水戸市が2位」であって「茨城県が2位」ではなく、県全体の販売量とも別の指標です。
- 納豆を食べると健康になるのですか?
- 県は「研究によりますと、納豆の摂取によって、高血圧予防と骨折予防の効果が認められている」と説明しています。これは県の説明であり、納豆を食べれば健康長寿になるという意味ではありません。個々の健康や治療については、医師等の専門家にご相談ください。
- 研究会にはどこが参加しますか?
- 茨城新聞の報道によれば、県内の納豆製造事業者11社と県による「納豆日本一研究会」を9月に立ち上げます。参加事業者の社名は、今回の公表資料には記載がありません。
- 予算はいくらですか?
- 茨城新聞は事業費1500万円を2026年度補正予算案に計上すると報じています。県議会での議決を経て確定するもので、この記事の時点では確定した予算ではありません。
- 県民は何をすればよいのですか?
- 10月から「平日納豆を1パック以上食べよう!」という宣言の募集が始まる予定です。あわせて10月からレシピの募集が始まり、2027年1月にレシピコンテストが開催される予定です。詳細は県の発表をご確認ください。
09 / SOURCES
情報源
- 茨城県|知事定例記者会見における発言要旨(2026年8月25日) ↗確認日:2026年8月26日
- 茨城新聞|納豆日本一奪還へ始動 茨城県計画 品質向上や消費拡大(2026年8月26日) ↗確認日:2026年8月26日
掲載内容は公開情報をもとに編集しています。制度や運用は変更される場合があるため、行動前に公式情報をご確認ください。