本文へスキップ
自治体・行政石岡市

「仕事を変えずに茨城へ」は可能か。石岡市が提案する新しい移住のかたち

石岡市が2026年9月から11月まで、東京都内の移住イベントへ3か月連続で出展します。「職を変えずに」を掲げる同市の支援制度を条件まで読み解き、東京の仕事を残したまま茨城で暮らす選択肢が成立するかを、イバトコ編集部が考えます。

イバトコ編集部
東京の仕事を残したまま暮らす場所を移す、という移住のかたちを線と点で示したイバトコのイメージ図

01 / CONCLUSION

結論

石岡市は2026年8月21日、9月から11月にかけて東京都内で開かれる移住関連イベント3件へ連続で出展すると発表しました。掲げているのは「職を変えずに、ゆとりを手に入れる」。常磐線の特急が停まる石岡エリアと、筑波山麓に有機農業が広がる八郷エリアという2つの暮らし方を並べ、いきなりの移住ではなく二地域居住や関係人口という関わり方も選べると案内しています。この記事はフェアの告知ではありません。「仕事を変えずに住む場所だけ変える」という選択肢が、市が公表している支援制度の条件のもとで実際にどこまで成立するのか。数字と要件を条件つきで読み解きます。結論を先に言えば、成立の余地はありますが、支援金を受け取る道を選ぶなら「住宅を買うこと」がほぼ前提になります。

02 / KEY POINTS

この記事でわかること

  • 出展は3件。ふるさと回帰フェア2026(9月12日・13日/東京国際フォーラム ホールE)、いばらき就農セミナー(10月10日/東京交通会館8階)、JOIN-FURUSATO移住・交流&地域おこしフェア(11月15日/東京ビッグサイト 東7ホール)
  • 市が示す「最短52分」は、JR常磐線の特急停車駅である石岡駅から上野駅までの所要時間。東京駅までの数字ではなく、特急利用時の最短値
  • 移住支援金は世帯100万円・単身60万円、18歳未満の子ども1人につき100万円加算。5人世帯の例として400万円が示されている
  • テレワークを理由に支援金を受ける場合、週20時間以上のテレワーク勤務に加えて、住宅の新築または購入が要件になる
  • 移住元の要件は、住民票を移す直前の10年間で通算5年以上、東京23区に在住または23区へ通勤していたこと。直前1年は連続して満たす必要がある
  • 転入前に市への相談と「移住支援金移住前相談書」の提出が必須。提出がないと対象にならない
  • 受給後は5年以上の継続居住が前提で、5年以内に転出すると返還の対象になる
  • 市は二地域居住や関係人口としての関わりも歓迎しているが、これらは支援金の一般的な要件とは別枠

03 / WHAT HAPPENED

何が起きた?

石岡市の移住定住支援ポータルサイト(2026年8月21日付)によると、同市は2026年9月から11月にかけて東京都内で開催される移住関連イベント3件へ連続で出展します。第1弾は「ふるさと回帰フェア2026」で、2026年9月12日(土)・13日(日)に東京国際フォーラム ホールE(有楽町駅)。第2弾は「いばらき就農セミナー」で、10月10日(土)に東京交通会館8階セミナールーム(有楽町駅)。第3弾は「JOIN-FURUSATO移住・交流&地域おこしフェア」で、11月15日(日)に東京ビッグサイト 東7ホール(りんかい線国際展示場駅)です。申し込みは各イベントのサイトから行います。市はライフスタイル別に2つのエリアを提示しています。「石岡エリア」は、JR常磐線の特急停車駅である石岡駅から上野駅まで最短52分というアクセスを挙げ、毎日の通勤に加えて月数回の出社とテレワークを組み合わせる働き方に適するとしています。「八郷エリア」は筑波山麓に位置し、「にほんの里100選」に選ばれた茅葺民家や田園風景、みかん栽培の北限・りんご栽培の南限ともいわれる果樹、そしてJAやさと有機部会を特徴として挙げています。市によれば同部会の会員の9割は新規就農者で構成され、市立学校の給食にも有機食材が提供されています。さらに市は「いきなり移住するのはハードルが高い」人向けに、週末だけの滞在やテレワークを活用した二地域居住など、関係人口としての参加も歓迎するとしています。問い合わせ先は市人口創出課(電話0299-23-7278)で、移住定住コーディネーターが相談に応じるとしています。

04 / CHANGES

具体的に何が変わる?

数字は条件とセットで読む必要があります。まず「最短52分」は、市の資料に「JR常磐線特急の停車駅・石岡駅から上野駅まで」と明記されています。東京駅までの数字ではなく、特急を使ったときの最短値です。全列車・全時間帯がこの所要時間になるわけではなく、普通列車のみを使う場合は変わります。特急料金も別途かかります。次に移住支援金です。市の移住支援金のページによれば、金額は世帯100万円・単身60万円で、18歳未満の世帯員1人につき100万円が加算されます。ただし受給には複数の要件があります。移住元については、住民票を移す直前の10年間のうち通算5年以上、東京23区内に在住していたか、東京圏の条件不利地域以外に住みながら23区へ通勤していたことが必要で、転居直前の1年は連続してこの条件を満たす必要があります。就業側の要件は複数の類型に分かれており、このうちテレワークを理由とする場合は「週20時間以上のテレワーク勤務」に加えて「住宅の新築または購入」が必要とされています。つまり、東京の仕事を続けたまま賃貸で移り住んで様子を見る、という進め方は、この類型では支援金の対象になりません。加えて、転入前に市へ相談し「移住支援金移住前相談書」を提出することが必須で、これがないと対象外になります。申請は転入後3か月以上1年以内、5年以上の継続居住が前提で、5年以内に転出した場合は返還の対象です。なお市の資料には「東京23区の約1/50の土地価格」という表現がありますが、比較の出典や条件(対象年・地点・地目など)は示されていません。この記事ではその数値を判断材料に使っていません。

05 / EDITORIAL VIEW

イバトコ編集部の解説

(以下は発表内容ではなく、イバトコ編集部による考察です。)地方移住という言葉には、いまも「仕事を辞めて人生をやり直す」という響きがついて回ります。石岡市が「職を変えずに、ゆとりを手に入れる」と最初に置いたのは、その前提を外しにかかっているからでしょう。実際、この打ち出し方は今回の3イベントの並べ方にも表れています。9月と11月は総合的な移住フェア、あいだの10月だけが就農セミナー。仕事を変えない人と、仕事を変える人。両方に別々の入口が用意されています。では「仕事を変えずに移り住む」は本当に成立するのか。制度の条件を読むと、成立はしますが、道は思ったより狭いことが分かります。テレワークを理由に移住支援金を受けるには、週20時間以上のテレワークに加えて住宅の新築または購入が必要です。ここが重要な分岐点です。移住を考える人がまず取りたい行動は「賃貸で1年住んでみる」でしょう。冬の寒さ、車がないと何もできない距離感、地域の付き合い方。住んでみないと分からないことは多い。しかし試住から入ると、この類型では支援金は使えません。逆に言えば、支援金は「もう決めた人」に向けた制度であって、「迷っている人」の背中を押す設計にはなっていません。ここで注意しておきたいのは、これを制度の欠陥と決めつけるべきではないということです。100万円単位の公費を出す以上、5年以上住み続ける意思を持つ人に絞るのは筋が通っています。市が同時に二地域居住や関係人口を案内しているのも、迷っている段階の受け皿を別に置いているからだと読めます。順番としては、まず関係人口として通う、次に二地域居住、決まったら支援金を使って住宅を取得する。制度を単体で見るのではなく、この階段として見たほうが実態に近いはずです。ただし、その階段が実際に機能しているかは、行政の資料からは分かりません。市は移住者インタビューをサイトで公開していますが、そこにあるのは移住した人の話です。検討して見送った人が何につまずいたのかは、記録に残りません。イバトコとして次にやるべきは、実際に移った人に「不便だったこと」を聞くことだと考えています。

06 / LOCAL IMPACT

地域への影響

(以下は発表内容ではなく、イバトコ編集部による考察です。)石岡市の特徴は、性格の違う2つのエリアを1つの自治体が抱えていることです。特急が停まる石岡駅の周辺と、筑波山麓の八郷。市はこれを「選べる2つのライフスタイル」として提示していますが、地域から見ればこれは受け皿が2種類あるということでもあります。都心の仕事を持ったまま移る人は、駅とその周辺の生活機能を使います。商業施設や医療機関が駅周辺にまとまっているという市の説明は、この層に向けたものです。一方、仕事ごと変える人の受け皿になっているのが八郷側で、市はJAやさと有機部会の会員の9割が新規就農者だと説明しています。この数字が示しているのは、未経験から農業に入る人を実際に受け入れてきた仕組みが、少なくとも制度としては存在するということです。就農支援と販路確保が組みになっている点も、市は特徴として挙げています。ここで考えたいのは、この2つが同じ市にあることの意味です。ふつう、都心通勤圏の自治体と農業移住の受け入れ地域は別々にあります。それが1つの市に同居していると、たとえば「はじめは都心通勤で石岡エリアに住み、数年後に八郷へ移って農に関わる」という移動が、市外への転出を伴わずに起こり得ます。移住を1回の決断ではなく、地域の中での移り変わりとして設計できる。これは他の自治体が簡単に真似できる条件ではありません。ただし、これが実際に起きているかどうかを示すデータは公表されていません。今回の発表で分かるのは、市がその可能性を打ち出したという事実までです。移住者が増えたか、生活費が下がったか、暮らしの満足度が上がったかは、今回の資料からは判断できません。

07 / FOR BUSINESSES

地域事業者への示唆

  • 不動産事業者:テレワークを理由とする移住支援金は住宅の新築・購入が要件です。賃貸で試したい層と、購入を決めた層では必要な情報がまったく違います。問い合わせの初期段階で「支援金を使う前提かどうか」を確認すると、案内が噛み合いやすくなります。
  • 地域の事業者全般:移住検討者が最初に知りたいのは補助金額より生活の実像です。冬の気温、最寄りのスーパーまでの距離、車がないと何が困るか。こうした情報は行政の資料に載りにくく、事業者の発信のほうが具体的に書けます。
  • 飲食店・小売:3か月連続でフェアに出るということは、9月から11月にかけて下見の来訪が発生し得るということです。営業時間と定休日をWebで正確に出しておくだけでも、初めて来る人の行動が変わります。
  • コワーキング・シェアオフィス運営:週20時間以上のテレワークという要件は、自宅以外の作業場所への需要と直結します。通信環境・電源・Web会議可否を明記しておくと、検討段階の判断材料になります。
  • 農業関係者:10月のセミナーは就農特化型です。受け入れ側として関わる場合、研修の期間・住まいの有無・収入の見通しを数字で説明できる状態にしておくと、検討者との齟齬が減ります。

08 / FAQ

よくある質問

「最短52分」はどこからどこまでですか?
市の資料には「JR常磐線特急の停車駅・石岡駅から上野駅まで最短52分」と記載されています。東京駅までの数字ではなく、特急を利用したときの最短値です。全列車・全時間帯がこの所要時間になるわけではなく、特急料金も別途かかります。イバトコ編集部では時刻表による独立した確認はできていません。
東京の仕事を続けたまま移住しても、支援金はもらえますか?
テレワークを理由とする類型があります。ただし市の移住支援金のページによれば、週20時間以上のテレワーク勤務に加えて、住宅の新築または購入が要件とされています。賃貸で移り住む場合、この類型では対象になりません。就業や起業など他の類型もあるため、自分がどれに当たるかは事前相談で確認してください。
移住支援金はいくらですか?
世帯100万円、単身60万円で、18歳未満の世帯員1人につき100万円が加算されます。市の資料には5人世帯(夫婦と子ども3人)で400万円という例が示されています。各制度には要件があります。
先に相談は必要ですか?
必要です。転入前に市の窓口または電話で相談し、「移住支援金移住前相談書」を提出することが必須とされています。提出がない場合は移住支援金の対象になりません。問い合わせ先は石岡市人口創出課(電話0299-23-7278)です。
受け取った後に引っ越したらどうなりますか?
申請日から5年以上継続して居住する意思があることが要件で、5年以内に転出した場合は返還の対象になります。
移住まで決めていなくても相談できますか?
市は、週末だけの滞在やテレワークを活用した二地域居住など「関係人口」としての参加も歓迎するとしています。ただしこれは移住支援金の一般的な要件とは別の枠組みです。

09 / SOURCES

情報源

掲載内容は公開情報をもとに編集しています。制度や運用は変更される場合があるため、行動前に公式情報をご確認ください。